コンビニ大手「ファミリーマート」(本社・東京都)の加盟店で働いた従業員の男性(当時62歳)=大阪府大東市=が死亡したのは、月200時間以上の残 業による過労が原因として、遺族が同社と店主に総額約5800万円の賠償を求めた訴訟が今月22日、大阪地裁(福田修久裁判長)で和解したことが分かっ た。ファミマは「著しい長時間労働」を認め、遺憾の意を表明。遺族が要望した店側への労務指導の努力を約束し、店主と解決金4300万円を支払うことで合 意した。

遺族側によると、チェーン展開する大手が、雇用関係のないフランチャイズ(FC)契約先の従業員の労災に解決金を支払うのは、極めて異例。

ただ、今回の和解で、ファミマは男性の過労と死亡との因果関係について直接的な言及を避けた。一方で、店主は過労が死亡の一因になった可能性を認めて謝罪。遺族に今後の労務管理の徹底を約束した。

訴状によると、男性は2011年4月、大東市内の店舗で働き始め、12年4月以降は別の店舗でも勤務するように店主から命じられた。8カ月後、作業中に意識を失って脚立から転落。頭を強く打ち、間もなく亡くなった。

男性と店主が結んだ雇用契約は1日8時間勤務だった。しかし、他の従業員への聞き取りなどから、男性は死亡前の半年間、国の過労死ライン(2カ月以上にわたり月平均80時間)を大幅に上回る月218~254時間の時間外労働を強いられたとしていた。

遺族は昨年4月に提訴し、転倒原因は「極度の過労などによる失神」とする医師の意見書を提出。店舗には勤務実態を裏付ける日報などが残されておらず、「店主は適切な労務管理を怠った」などと訴えた。

また、ファミマからは経営指導を行う社員が定期的に店舗を訪ねていたと指摘。「労働環境の改善を放置した安全配慮義務違反がある」として、同社の賠償責任も求めていた。

ファミマ側は当初、「男性とは雇用契約がなく、経営上の責任は全て店主にある」と主張した。店主は「転倒の原因は単にバランスを崩したため」として、争う姿勢を示していた。

しかし関係者によると、16年夏ごろ、ファミマから遺族側に和解の打診があり、協議を進めていた。

ファミマは取材に、「和解は事実だが、コメントは差し控えたい」。遺族側の弁護団は「今回の和解は、コンビニチェーン店で今も働く従業員の生命と健康の安全を確保するうえで大きな意義を持つ」との声明を出した。

◇待遇改善の契機に 競争激化、働き手に過重

日常生活に欠かせなくなったコンビニ。その利便性の裏で、各店舗では人手不足に伴う店主や従業員の労働が過酷さを増している。

日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニ業界の昨年の年間売上高は初めて10兆円を突破した。昨年末の全国の店舗数は5万3544店(前年比2.9%増)で、拡大を続けている。

大手コンビニ店の男性経営者(58)は「業界は飽和状態で客が分散し、売り上げは減っている。人件費を抑えざるを得ず、店主や従業員の負担は増加の一途だ」と打ち明ける。最低賃金ラインでバイト募集をするため、働き手が確保できない。

フランチャイズ契約は、店の売り上げから商標使用などの対価を差し引いた額が店主に支払われる仕組み。一方で、個人事業主扱いの店主は労務管理を含む全経営責任を負う。

コンビニ問題に詳しい愛知大の木村義和准教授(民法)は「経営指導に関わる本社も加盟店に一定の責任を持つべきで、今回の和解は待遇改善の契機になるのではないか」と語った。(毎日新聞)