消費者起点のビジネスモデルである「マーケットイン」を掲げる伊藤忠商事としては、ファミリーマートが持つ直接的な顧客情報を活用しての事業改革が喫緊の課題だ。

 そのため伊藤忠の「大エース」と呼ばれる細見研介執行役員を、ファミマの次期社長に送り込んだ。本来なら、デジタル化や顧客情報活用による新たなコンビニ事業モデルやそれを支援する商社モデルの改革を細見氏は進めたいが、新型コロナウイルスの影響で、赤字に転落しているファミマの再生を優先せざるを得ない。

 18日のオンライン会見で、将来のコンビニ像をどう描いているのかとの質問に細見氏は、「3年後を語るにはまだ早い。見極めも必要」と、具体的な回答は避けた。その背景にあるのが、「喫緊の課題は、まずコロナ禍の中、どう切り抜けていくのか」と強調するように、ファミマの立て直しは待ったなしだ。

 今年設立40周年を迎えるファミマだが、細見氏が明言するように「他チェーンとの合併を伴った急拡大の歴史」であり、規模を大きくできたものの、完全な統廃合を経た今日でも店舗当たりの収益力が強化されたとはいいがたい状況だ。大都市圏やオフィス街への出店が多かったため、コロナ禍の在宅勤務の拡大で、売り上げが激減するなど、出店計画の課題も浮き彫りになった。

 その中で、細見氏は「商品開発、利便性、親しまれる店舗」の3つの原点に立ち戻ると言及したうえで、デジタル技術を使って、「グループ内のサプライチェーンを再構築し、コスト削減に手をつける」方針を説明。伊藤忠流の商売の基本「稼ぐ・削る・防ぐ(か・け・ふ)」の削るに注力し、黒字転換を図ることを表明した。

 ただ、伊藤忠の岡藤正広会長の懐刀ともいわれる細見氏のミッションは、コンビニ事業を通じ、リアルな店舗で集積した顧客データをもとに、これまでにない、新たなビジネスやサービスを構築し、それを伊藤忠の事業とのシナジーにつなげることだ。そのため、細見氏の本来の使命であるファミマや伊藤忠の次の成長戦略を早く実行に移せるかは、ファミマの再生スピードにかかっている。(産経新聞)